先日、唐突に某テレビ局から、番組で紹介したいので
野坂昭如氏から先代に宛てた手紙があれば・・
との依頼があった様でございます。
野坂氏とわたくしの父は学生時代より、親しくおつきあいがございました。
野坂氏から父に宛てた手紙は大女将が、先代の思い出とともに大切に
保管致しております。
立ち入った内容もございますので、館内に展示しておりますものを
FAXした様です。
わたくしも幼い頃より、野坂氏・陽子夫人に可愛がって戴きましたし
大変お世話にもなりました。
野坂先生のファンを名乗るお客様もおられ、当館でのエピソードなど
お話を致しております。
今日はその内の一つをお話致しましょう。
わたくしが幼い頃、出版社から逃れるために(?)ふらりと
いらっしゃって、追っ手が迎えに来るまで当館に逗留なさって
おられました。
お酒もよく召し上がり、酔い覚ましの温泉は岩風呂がお気に入りでした。
昭和初期のしつらえが落ち着くとおっしゃって、お部屋はだいたい「合歓」(ねむ)の間。
わたくしには茶目っ気たっぷりに、「おじさんはとても悪い人で、おばさんに
いつも叱られているんだが、あなたにこんなことを言ったらば、きっとひどく
ぶたれるだろうが、おじさんはこのお部屋の名前が実はとても気に入って
いるんです。ゴウカンの間だからね。」っとウインクしながらニヤリ。
確かに問題発言ですが(苦笑)わたくしをからかってのことです。
うす暗がりの中、煙草の煙のかたまりの向うに、行灯の灯りが
見え隠れしている情景をよく憶えております。
襖の間から覗き見した、原稿を書いていらっしゃる野坂氏の背中
でございました。
両切りのショートピース・・濃紺の缶・・今はないんでしょうねぇ。